先祖から伝わる重要文化財とお茶を守り続ける
井川の中野観音堂には、針葉樹材による一木造(いちぼくづく)り(頭部と体部が1材から彫り出されること)で平安時代中期(10世紀後半~11世紀前半)に作られ、静岡県の指定有形文化財に指定された千手観音立像をはじめとした五体の仏像が安置されています。また、静岡市指定有形文化財に指定された、応永31年(1424年)11月の銘がある静岡市で最古といわれる鰐(わに)口(ぐち)(仏堂の正面軒先に吊り下げられた仏具の一種)も保管されています。
古くからある観音様を世襲で代々守っているのが田畑家です。現在、中野観音堂の別当(べっとう:寺院での僧職の名称)の職に就くのは、40代の頃から父から引継いで観音堂を管理しているという田畑 清さん。「私の祖父の時代までは、本堂には女性は入れず、管理はもっぱら男の仕事でした。祭りやご開帳が近づくと、男は何日も前から、家族とは別の釜で飯を炊き、精進料理と滝壺で身を清め、贅(せい)を絶ったそうですよ。今はそこまではしませんがね。」と田畑さんは語ります。
仏像の由来については、はっきりしたことがわかっておらず、平安時代にご先祖が井川まで背負って運んできたという説もあります。その際、里芋を食べながら峠を越えたと言われており、今でも祭りには「芋田楽」が参詣者に振舞われます。
祭りは、年に2回、1月6日と2月7日の晩に執り行われ、かつては、一晩中お堂で過ごしたことから、このお祭りのことを「お籠り」(おこもり)と称していました。かつては、1月6日は、1年に1度、御本尊が御開帳され、1月7日の早朝、太陽の光が差し込むわずかな時間だけ御本尊を拝むことが許されたそうです。「お籠り明けの早朝、お堂に入る込む朝日の光は、神々しいですよ。」と目を細めていました。
田畑さんは、普段は中野観音堂の前に広がるお茶畑でお茶農家を経営しています。静岡県茶業試験場で開発された、静7132号(井川コマチ)という品種を使った井川銘茶「千年千手」を販売しています。この名前は、仏師吉備文化財修復所の牧野隆夫先生が命名してくださったそうです。「桜葉の香といわれますね!渋みの利いた本物志向のお茶で、その素朴な風合いが、千手観音立像と似ていることからお名前の一部を拝領いたしました。どちらも私の宝物ですよ。」と誇らしげな田畑さん。
田畑さんが作るお茶は、奥深い伝統を感じさせる香り高いすっきりしたお茶です。
田畑さんは、これからも代々守ってきた仏像とお茶畑を守り続けると言います。「それが僕の仕事だし、当家の後継ぎですから、なんの苦でもありません。」とのことでした。
田畑さんの熱いまなざしは、井川の伝統を守り続けてきた男の勲章です。
そんな伝統を守り続けるそばでじっと見守っている、優しい奥様の笑顔が忘れられませんでした。
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